感謝の欠落


近頃の夫の不機嫌さと 夫の不安は最大でした。


半年前から予期せぬ方向に走っている現状に夫は苛立ち、八方塞がりで困惑しているようでした。
私が作り上げた理想の聖人君子とは程遠く、仕事・プライベート両面でほころびが生じていることを感じていました。


亡くなる直前
「オマエの所為じゃ!」と理不尽に怒ったかと思えば爽快な態度を取り、怒りや不安を忘れるように快楽に走っています。
感謝の欠落から責任転嫁をし、怒りに苛まれ自分の言葉が自分の心を乱し、心を不安にさせ更に快楽を求め睡眠不足で判断が鈍ったのだと思えてなりません。
そして、事故という大きな果を生んだのでしょう。
それとも…ご自分で選んだ道?お天道様を誤魔化す死に方を考えたのでしょうか?


10月の三連休二日目、夫はやおら腰をおろして3つの悩みを打ち明けてくれました。
言葉や態度に無視の気配はなく慎重に話しを進めます。
私の尊厳や人格を傷つける内容ではないことを感じ「ようやく話す気になったのね」と思いながら、
私は解決の糸口が見つかることを願って、望むお茶を淹れ頷きながら話を聞いていました。


一番に仕事の面で夫の尊厳は傷ついていました。
仕事の段取りや技術面では誰にも負けない自信がありました。経験が豊富で必要な部材を的確に示すのでロスは少なくお得意先からは重宝されていたはずです。
ですが方向性の違いで取引停止の危機を抱えていると言います。
感謝の気持ちが有れば苛立ちを寝かせ謝罪ができます。
「遅くはないわ。謝りましょう」と、勧めますが、
「ワシは悪くない!」
モラルハラスメント研修を受ける機会が無かった昭和オヤジのアガキは、勝手な言い分ばかり…。
視点を変えて、「お父さんの腕を求める人は必ず居るから大した痛手では無い。」と話し掛けますが、
それは本人が一番理解していて「当たり前じゃ!」と。
悩みはそこではなく、兎に角職人としてのプライドが傷付き怒っていました。
何故?信頼が崩れはじめたのでしょうか?いったい何処で方向を誤ったと言うのでしょうか?
夫は腕一つで確実に積み上げてきました。その努力を知っている私には、なりゆきが追いつきません。


二番目に見捨てられる不安を抱えていました。
「後輩が再婚相手にあしげく貢いでいるが、ありゃ〜、連れ子が成人したら見捨てられるのは とのこと承知じゃ。気の毒でならん。オマエはどう思うぞ?」と夫。
「愛の深さは傍目にはわかりませんよ」と私。


三番目、仲間が賛同しない煩わしさを嘆き意地になりプライドが深く傷付いているようでした。
「世話になっとるネーヤンの誕生月は9月じゃ。じゃけんどの!同じ世話になっとる同士じゃのにAは今年から誕生会をセン言よる。他のモンも参加せん言い出した。遅くなったがワシは誕生会をするぞ。ネーヤンの孫の誕生も重ねて祝うけんネーム入りのよだれかけを作ってくれ。祭の前日に是非ともそれを贈りたい。」と言います。
私はその女性が皆んなのマスコットガール的な存在であって、夫の気持ちが楽になるのなら唯一私にできることと思い快諾したのでした。


ベビースタイは頼まれた翌日に仕上がりました。夫に手渡した時、相変わらずありがとうとも言わず「よし!」と頷いて何かしら覚悟を決めた様子でした。
「その方は、赤い車に乗っているの?」と訊ねると
「・・・」しばらくは無言の夫。
「疑っとんか?何をいよんぞ!ワシはしっかりアンタに夢中じゃ!」と夫。
「出張対応のセラピストさんによろしく」と夫を送り出したのでした。


思い返せば、
洗濯カゴに入っている作業着を持つと夫の頑張りが想像できますが、全く汚れていないのに早々とお風呂に入っている日、マットはタップリと湿り、シャワーノズルを掛ける位置が家族が掛けることがないフックに掛かっていることが数回ありました。
親類縁者では全く見掛けない真っ赤な車を日頃から不審に思っていたお隣さんは、その車が長く駐車していたことを幾度となく知らせてくれました。
女性を招き入れていることが確信できる現状です。私は40年という夫婦の歴史を振り返りこのようなことに振り回させることから解放されたいのです。
不義を示したスマホの内容は、それらの情報とほんのわずかなズレや間違いも無くピッタリ結び付きました。


期待を手放していたはずなのです。
そのように言い切ったほうが楽かもしれません。
狂いそうなザワザワ感、書いても払拭できずにいます。


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